Wantedly株式会社はいかにして炎上したのか

 最近、Wantedly株式会社におけるDMCA申請による炎上が話題になっています。

DMCAとは

 正式名称をデジタルミレニアム著作権法(Digital Millennium Copyright Act)と呼び、2000年に施行された米国の連邦法です。

 当時急速に普及したインターネットなどに対応すべく制定された、WIPO著作権条約に米国著作権法を整合させるために制定されました。

セーフハーバー規定

 米国著作権法は無過失責任制のため、ISPやサービス運営者に過失がなくても、法的に罰せられるリスクがありました。

 これを回避するための、いわゆる「セーフハーバー」規定が、米国著作権法の512条に規定されています。(参考:著作権情報センター 著作権データベース

 この責任を回避するための要件のひとつである、512条-(c)-(1)-(C)の条項によると、

(C) 第(3)節に掲げる侵害主張の通知を受けた場合に、侵害にあたるとされるまたは侵害行為の対象とされる当該素材を除去しまたはアクセスを解除すべく速やかに対応すること。

 通知を受けてから速やかに対応する必要があるということがわかります。

Notice and Takedown

 先述したセーフハーバー規定により、責任を回避するためには迅速な手続きが必要となりました。その手続きのひとつが、Notice and Takedownです。

 Weblio IT用語辞典によると、

ノーティスアンドテイクダウンとは、著作権に関する手続きの概念のうち、プロバイダ(インターネットサービスプロバイダ)が著作権者から通告を受けた際に、当該コンテンツを速やかに削除し、また、コンテンツの発信者に通知を行う、という手続きを含んだ一連の流れである。

 ここで問題となるのが、「初動対応では著作権侵害主張の通知の調査義務がない」つまり、真偽を問わないという点です。

 調査を行うことなく削除や情報の遮断などを行うことができるという点から、たとえば都合の悪い情報はとりあえずDMCA申請を行って、情報を遮断するという恣意的な利用を行うユーザーが現れるようになりました。

Wantedly株式会社の問題

 さて、本稿の主題であるWantedly株式会社のDMCA申請ですが、とあるブログ記事に対するGoogleおよび、それを紹介していたtwitterのツイートへの著作権侵害主張が行われました。該当する記事はこちらです。

 twitterの削除申請にいたっては、Lumen Databaseに現時点で40件以上もの申請が行われているようです。

 もともとの記事は、WantedlyのIPOに関する少々批判的な考察記事となっていますが、先述したように、この申請が悪評隠しのためのDMCA申請を悪用した行為なのではないか、と疑念を呼んだことが、今回の炎上の原因となっています。

申請への疑念

 Googleの検索結果への削除要請は、Lumen Databaseで閲覧できます。これによると、先ほど紹介した記事だけでなく、CEOの写真が使われている複数のサイトも同時に申請されています。

 ごく真っ当な申請にみえますが、以下のような理由によりさまざまな疑念を呼びました。

申請のタイミング

 それまで何も行ってこなかったにも関わらず、この時期に突然DMCA申請を行ったことに対し疑問を呈している人が多いようです。さらに、Lumen DatabaseのORIGINAL URLSの05番は、2年以上前の記事です。

 なぜ今まで放置し、そしてこのタイミングでDMCA申請を行ったのか?メインの記事だけの申請ではあまりにも露骨すぎるので、隠れ蓑としたのではないか?という点で疑念を呼びました。

申請サイトの基準

 当該画像で検索すると、他にも画像を掲載しているサイトが複数ありました。当該画像を使用しているすべてのサイトに対してクレームを入れたわけでもないようです。

IPOに関する批判的な話題であったこと

 会社批判ともとれる記事であったことから、「都合の悪いことを削除しようとした」と解釈されてしまったのでしょう。これが、もしWantedly株式会社を好意的に紹介している記事だったのであれば、ここまで炎上はしなかったはずです。

Twitterのツイートに対する申請

 当該記事を紹介するツイートに対して申請が上がっているようことに関しても、さらなる疑念を呼びました。単にURLを紹介しただけの記事が著作権を侵害しているとは到底思えません。

なぜ炎上したのか

 DMCAの要旨は、著作権法違反に関する法律です。しかし、今回のWantedlyの行動は、先述したような理由もあり、批判記事に対する攻撃、つまりDMCAの悪用という禁忌行為として数多くのネットユーザーに認識されてしまったことが炎上の原因でしょう。

 インターネットは人類の共有財産であり、言論の自由を奪われてはいけません。最近あった、Googleが海賊製品に関する検索結果の削除を求められた訴訟においても、「インターネットの自由」を守るためにGoogleは様々な行動を起こしています。

 また、これを行ったのがネットを牽引すべきIT企業であったことも、炎上を助ける一因となっています。

火に油を注ぐ公式声明

 Wantedly株式会社からの公式声明が説明不足であったことも、火に油を注いだ結果となっています。申請に至った経緯など、ネットユーザーが疑問に感じていることが全く説明されていません。

その後の経過

 twitterなどを覗いてみると、比較的インターネットに精通しているであろうエンジニアが、皆こぞってWantedlyを退会しているようです。

 今回の件を受けて契約を打ち切る企業もじわじわと増えてくるでしょう。

 ここまでくると、今後の状況次第では、利用していること自体が好ましくない結果を呼ぶ可能性もあります。

まとめ

 今回の件は、IPOに関する会社の体質というよりも、DMCA申請による「邪悪な」な許されざる行為が反響を呼んだものと思います。

 まだまだ続きそうな炎上ですが、今回の件は様々な人にとって良い教訓となるでしょう。一度失った信用を挽回できるのか、これからどう挽回していくのかが非常に勉強になりそうな事件ですね。